ヨーロッパの文明はギリシアから
 
 ファッションの勉強のためイタリアミラノに住んではいるものの、あれほど憧れてやってきた街が、異国の異文化に触れることに麻痺してきているな、と僕は彼女を誘ってギリシアの旅行をすることにした。ちょうどファッションの専門学校も終了したところで、このままミラノに残ってどこかでアパレル関係の仕事で経験をつむ目的で就職活動を始める前のクリスマスだった。ある人いわくギリシアは夏がいいという。しかし、この機会に行かないと、今後いつ彼女と行けるかわからない。ある人から翻訳の仕事を手伝ってほしいと依頼をされ、ちょうどひと段落ついて、同じ人からファッションデザイナーを紹介され、就職できるかもしれないという、いい調子の旅立ちだった。

 

 アテネもミラノと同じようにクリスマスムードがいっぱいで、ここでもやっぱり、サンタクロースにクリスマスツリーで、まずは首都アテネは、ミラノと変わらない都会からのスタートを切った。町並みを見るとそれほどお洒落でないのは仕方がないが、お店の看板は、さすがにギリシア語で書いてあると異国ムードは感じるものの、外国の企業名の看板も以外に多くて少しがっかりしてしまう。でも人はギリシア語で話しているし、やっぱり新鮮な気持ちだ。
 この国は、その昔、ローマの発展に影響を与え、その頃、地中海において最も文明が発展し、今日の世の中にまで、影響を与えているらしいが、贔屓するわけではなく、それは、イタリアでの方がより強く感じられ、ギリシアには、そういう文化の香りが乏しいように感じる。そんな考えにふけながらも、彼女が無邪気にサンタクロースを見て喜んでいるのを見て、「ま、いいか」と言いながらそのお店でお土産を買い、大きなサンタクロースの前で写真を一枚撮る。


 

 さて、翌日は、アテネでも観光らしいことをして、アクロポリスを訪ねた。この「ポリス」という言葉を聞いて、そういうえば、日本でも学校の世界史の授業で勉強した、あの古代の世界がこの目の前にあるのだと、青い空の下、廃墟の中にも堂々と聳え立つたくさんの柱は、実際に近くに行ってみると、こんなに大きな石をいったいどうやって運んできたのか、と素朴な疑問だけが頭を過ぎっていた。アクロポリスは、アテネの町の真ん中にあり、どこからでも見える切り立った丘で、その上は神殿がどんどん建っていたらしい遺跡がたくさんある。それにしても、この丘からの見晴らしは爽快だ。古代のギリシア人もこれとよく似た気持ちで丘の下の町を見下ろしていたのだろう。とはいえ今アテネに建っている建物は、古代の遺跡とはまったく調和しない。ある地区にはギリシアらしい建物もあるし、教会はギリシア正教なので、イタリアでのカトリックの巨大な教会を見慣れてしまうと、ちょっと寂しいが、独特の暖かみが感じられる。ただ、驚いたのは、大通りからも教会の中が見えるように扉が開いたままになっているのだが、それよりも、中にいる人が順番に聖母マリアの絵の祭壇で、覆ってあるガラスに口を当てて接吻をしていた。しかも、皆が同じ箇所に接吻をするのは衛生的とは言えない。そう考える反面、なぜかわからないが、心がきれいになった気持ちがした。ここでもイタリアが思い出された。古代に多くの神々を信じていた多神教の教えはギリシアもローマもほとんど同じというくらい似ていた。その古代文明は崩壊して、一信教でそれまでとはまったく違うコンセプトのキリスト教を受け入れているところでも、この両国には共通点があるものの、ディオクレティアヌス帝によってローマ帝国が東西に2分されて以来、ギリシアは当方の文化圏に組み込まれている。歴史の足跡が少し見えてきたように思えたが、あまり詳しいといわけではないので、考えるのはこのくらいにしておき、ギリシア料理でアテネの夜を満喫する。

 
 いよいよ、アテネを離れてデルフィに向かう。ここは、遺跡が豊富で、大都市の中にあるのではなく、しかもかなり高い場所にある。本当にこんなところが栄えていたのかなあと、でも昔のことだから車もなかったし、時間はもっとゆったりしていたのだろう。この様にゆったりとした時間を味わうために旅行をしているわけだ。別に遺跡がそれほど好きなわけでもないけど、白い大きな石の遺跡は、いつでも青い空、青い海によく似合ってロマンチックだ。ギリシアはまだまだ、きれいな所があるらしい。白い家だけが建ち並ぶ、ミコノス島やサントリーニ島などがそうだが、もっと時間(とお金)があれば、ぜひ行ってみたいところだが、それは次回に回すとして、よく考えれば、ギリシアの国旗も青と白、この二つの色だ。その国にはそれぞれの、カラー、スタイルがある。旅をして見えてきたのは、その国だけではなく、自分自身もなんだ。
 
 ミラノに帰るといつもの忙しい生活が待っていた。旅行の楽しいみが終わった残念さと少しホッとした気持ちが混ざっている。でも、今回ギリシアに行ったことで、ミラノのよさもまた見えてきた。青い空、白い家はないが、建物も歩いている人も、カラーにもスタイルにもバリエーションがある、イタリアで最も現代を生きる街なんだと感じる。その上、最近のミラノでは、ショウウインドウで、わが国日本のスタイルを取り入れたものが多くあり、しかも、イタリア的にアレンジされていた。その後に日本でお正月を過ごしたのだが、少し街を歩くとイタリアブーム以来、少し前と比べても、イタリアっぽいものが、かなり多くなっているのに気がつく。古代のものは動かなく静かにしているが、そこをスタートした、その子孫のような文化は、今でも他の文化と影響を与えたり受けたりし続けている。これで、この街に住み、もっといろいろ吸収する意欲がでてきたのである。
 
2003年1月 山口

 

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